S.R.I(ShiroSano Research Institute)

佐野史郎さんを愛し、佐野さん出演作を研究する研究所

青い鳥(1997)

青い鳥

放送データ

放送日:1997年10月10日-12月19日 金曜10時 全11回
制作:TBS
プロデューサー:貴島誠一郎
原作・脚本 :野沢尚
音楽 :S.E.N.S.
演出 : 土井裕泰 竹之下寛次
プロデュース補 :那須田淳
出演:豊川悦司 夏川結衣 佐野史郎 永作博美 鈴木杏 山田麻衣子 
   りりぃ 仲谷昇前田吟
主題歌: globe「Wanderin' Destiny」 (avex globe)

作品のあらすじ

長野県「清澄駅」で駅員をしている主人公・柴田理森(豊川悦司)の前に、現れた一人の女性…町村かほり(夏川結衣)。都会的な雰囲気の美しいその女性は、町の権力者の息子である綿貫広務(佐野史郎)の妻…広務から熱望され、前夫の暴力から救い出してくれたことから広務と再婚し、娘・詩織(鈴木杏)をつれて清澄に暮らし始めたが、田舎での生活や舅・純一朗(仲谷昇)からの嫌味にひたすら耐える生活をしていた。そんなかほりの娘・詩織は電車通学を通じ、駅員の理森になつく。とある日、詩織を駅まで迎えにきたかほりに理森は心奪われる。また、息苦しい生活を送るかほりもまた、素朴な理森に次第に心惹かれ、救いを求めていく。ふたりの許されざる恋は、密会を経て、やがて夫・広務の知るところとなり…

ドラマの見どころ(独断と偏見)

このドラマ、企画準備に1年、撮影に半年という長い年月を費やして作られていて、北海道から鹿児島までロードムービースタイルの全国縦断ロケを敢行したという、バブル後に制作されたドラマとしてはかなり珍しい「大盤振る舞い」なのが魅力。

また、プロデューサーはわたくし工藤の大好きな【誰にも言えない】を手掛けた
貴島誠一郎(大尊敬!)


1995年に貴島さんがプロデュースした【愛していると言ってくれが大ヒット。そのドラマに出演され、多くの女性を虜にした豊川悦司を主役にした新しいドラマを作る!ということで制作予算がたくさん確保でき、連ドラらしからぬスケールで制作されたもよう。

また、脚本は【親愛なる者へ】【素晴らしきかな人生】【この愛に生きて】【恋人よ】などで知られる野沢尚。貴島さんが野沢さんにドラマの脚本を依頼したのには驚いた。なぜならこのお二人、ライバル関係のような間柄だったからである。


ライバル関係の図式としては以下のとおりである


1992年
フジテレビ 木曜劇場【親愛なる者へ】脚本:野沢尚
(出演:浅野ゆう子柳葉敏郎横山めぐみ佐藤浩市

TBS 金曜ドラマ【ずっとあなたが好きだった】脚本:君塚良一
(出演:賀来千香子布施博佐野史郎野際陽子

 

1993年
フジテレビ 木曜劇場【素晴らしきかな人生】脚本:野沢尚
(出演:浅野温子織田裕二七瀬なつみ佐藤浩市ともさかりえ

TBS 金曜ドラマ【誰にも言えない】脚本:君塚良一
(出演:賀来千香子佐野史郎山咲千里羽場裕一野際陽子


1994年
フジテレビ 木曜劇場【この愛に生きて】脚本:野沢尚
(出演:安田成美・岸谷五朗豊川悦司深津絵里嶋田久作
TBS 木曜【長男の嫁】脚本:大石静
(出演:浅野ゆう子石田純一鈴木杏樹段田安則野際陽子

1995年
フジテレビ 木曜劇場【恋人よ】脚本:野沢尚
(出演:鈴木保奈美岸谷五朗鈴木京香佐藤浩市
TBS 木曜【長男の嫁2~実家天国~】脚本:大石静
(出演:浅野ゆう子石田純一鈴木杏樹佐野史郎野際陽子

といった具合で、
野沢さんはフジテレビのドラマ脚本家として
貴島さんはTBSでドラマプロデューサーとして
同時期に鎬を削っていた。

ちなみに1993年【素晴らしきかな人生】を手掛けていたころの野沢さん、ドラマの脚本にめどをつけて、映画を観に行っているのですが、その映画とは佐野史郎さんと横山めぐみさんのお二人が出演した【ちぎれた愛の殺人】。脚本家の厳しい目線で鑑賞した感想とともに、こんなことがつづられていたので引用。

野沢尚公式ブログ: 映画館に何故、現代がないのか

去年、佐野史郎が冬彦さんをやった。おかけで同時期にやっていた僕のドラマはかすんでしまって悔しい思いをした。冬彦さんの造形は、いかにも刺激好きな視聴者に巧みにおもねた嗜好品だったと思うけど、よくも悪くも、今の時代の空気は背負っていた。
キャラクターの幼さが、現代人そのものの幼さである……という観点で見れば。


「冬彦さんの造形は、いかにも刺激好きな視聴者に巧みにおもねた嗜好品」

この表現お見事である(笑)
そしてちゃんとドラマチェックしてたんだ。

そんなこんなで野沢さん自身にもライバル関係の意識があり「この人(貴島さん)からは仕事のオファーは来ないだろう」と思っていたらしく(ドラマのシナリオ本より)、依頼があったときはさぞかしびっくりしたのではないかと。

視聴者の求めるものを察知し大幅に脚本変更することもいとわない手法の貴島さんと、初期段階で”この人間はどういうレールの上で生きてきたか”をちゃんと示す手法の野沢さんとがタッグを組む【青い鳥】…当時どんなドラマになるのか非常に興味深かった。


だが、わたくし工藤、名作と名高いこの【青い鳥】のリアルタイム視聴に挫折している…何故かって?答えは簡単。

佐野さんの演じる綿貫広務の立場が、観ていてつらい…

なので、成人してからあらためて鑑賞。それでもちょっと観ていてつらいよ。
【青い鳥】ファンの方々、大変申し訳ない。わたしは広務派なんだ…

※以下、ちょっと恐る恐る見ているので解釈違いがあればご指摘願いたい

このドラマ、【ずっとあなたが好きだった】と同じような構造で、
登場人物の誰に肩入れするかでかなり印象が違うドラマだと思うのだ。

理森(豊川悦司):心優しい駅員。人妻とその娘を遠くから見て惹かれていき、自分との環境を重ね葛藤しながらも気持ちが通いあった結果、旦那に知られることとなり、それがきっかけで人妻とその娘が引き離されそうになるが、その姿を幼いころの自分と重ね衝動的に人妻と子供をつれて逃避行を決行する(主人公)

かほり(夏川結衣):生活には不自由していないはずの人妻。田舎&舅の嫌味で窮屈な生活を強いられて不満は口に出せずストレスフル。前の夫のひどい仕打ちから救い出してくれる人と結婚してやっと幸せになれると思ったのに、前の夫とのことは金で解決したと知って呆然とする一方、静かに優しく寄り添ってくれる男と子供を連れて逃避行する

広務(佐野史郎):親のレールを走る男。銀座のクラブで一目ぼれした女性であるかほりの苦境を金で解決して救い出し、妻にしてそれなりの生活をさせてあげている。学生時代のコンプレックスや父親との軋轢&母親の死による家庭へのあこがれなどが垣間見え、やや性格が屈折しているものの彼なりに妻を愛している

…結構ざっくり書いてしまったが、この三人の立場と思いを考えたとき、冷静に考えるとやはりかほりが一番悪い気がするのだ。解決すべき問題に正面から向き合っておらず、自分の力で解決していない。そして何よりも若干娘を蔑ろにしているところが気になる。振り回される娘が傷つくことは母親ならば想定してほしい…がそこがうまくこなせていないように見えるのは彼女の性分が「母」ではなく「女」であるということなのか。

理森は父・憲史(前田吟)に「お前のやってることは生活じゃなくて旅行だ」と言われていたがまさにそのとおりである。逃避行する三人の行動には未来が無く、ひとときの幸せはあるかもしれないが、今その時しかない。


追ってくる旦那がいる、連れ戻されたら不幸になる、子供と母親も引き離されるだろう…というそのドキドキハラハラを固唾を飲んで見守るのがこのドラマの楽しみなのだと思うし、トヨエツのかっこよさに目を奪われて、ぽーっとのぼせてしまいそうになるんだけども…しっかり構築された人物設定とリアリティのある舞台であるが故に、この逃走劇を観ていても「幸せになれる方法を立ち止まって考えずに逃げるのは大人のやることではない」という思いが頭から消えないわたし。

また、かほりは結果的に理森・詩織・広務に暗い影を落としていなくなるのだが…結果、かほりが贖罪のため&理森を護るために実行したであろう「強制リセット」は罪をあがなうどころか、これからも生きていかなければならない理森にさらなる「十字架」を押し付けていったのではないか。理森は生きることで贖罪をするのだが、その姿はなんとも可哀想に思えてしまう。

またそんな理森を憎みつつ、真実を知り、やがて愛するようになる詩織の心情も、かほりの面影を抱きつつ、その娘・詩織の心を最終的に受け入れる理森の心情も私にはどうもわからない…。

なので、理森・かほり・詩織の逃亡生活を観ているよりも、広務が血相を変えて「どんなことしてもいいから妻を連れ戻したい!おれが望んで手に入れた女なのだから!」という執念の方がよほどリアリティがあり、いっそ元凶を断ち切ってやる!と言わんばかりに斧を握り締める広務の表情を観ると、そちらの方を応援したいと軍配を上げてしまうのはやはり贔屓目なのか…?


佐野史郎さんの役どころデータ

役名:綿貫広務(わたぬきひろむ)
職業:綿貫建設専務→清澄市長
女性関係:妻・かほり 娘:詩織(広務の実子ではなく、かほりの前夫との娘)

なお、佐野さんもご自身のサイトで「撮影裏話」をつづっている。
「青い鳥」ファンにはたまらない内容になっていると思うので未読のかたは是非ごらんください。

佐野史郎/撮影現場、密着レポート

<<おまけ>>

この記事、2023年の1月くらいに書き始めて、ちょっと辛口かな~偏見かな~「青い鳥」ファンの人怒るかな~(;^_^A)などと悩み続けながら書き上げた後ずーっと下書きに入っていました。久々に読み返したら自分の文章じゃないみたいだった(笑)そろそろ出してみるか、と思って出しました。


このドラマの佐野さん成分以外で好きなところは北海道が出てくること。
北海道の景色がドラマに出てくると、なんとなく親しみを覚えます。
ふるさとー!って感じです。


第7章で宇梶さんが探す湖の候補として「朱鞠内湖(しゅまりないこ)」を出していたのが個人的にツボでした。あまり北海道出身でも「朱鞠内湖」って口に出すこと少ない気するのよね。