S.R.I(ShiroSano Research Institute)

佐野史郎さんを愛し、佐野さん出演作を研究する研究所

夢みるように眠りたい(1986年)

夢みるように眠りたい

 

作品データ

公開日:1986年5月18日
制作:映像探偵社
配給:シネセゾン
監督:林海象
脚本:林海象
製作:林海象 一瀬隆重 あがた森魚
音楽:浦山秀彦 熊谷陽子 佳村萠 あがた森魚
撮影:長田勇市
照明:長田達也
美術:木村威夫
衣裳:長澤均
助監督:植村康忠
出演:佳村萠  佐野史郎  大竹浩二  大泉滉  あがた森魚  小篠一成  中本龍夫  中本恒夫  十貫寺梅軒  遠藤賢司  草島競子  松田春翠  吉田義夫   深水藤子

作品のあらすじ

舞台は、昭和初期の東京。私立探偵・魚塚甚(佐野史郎)の元に、老婆・月島桜(深水藤子)の執事・松之助(吉田義夫)が仕事を依頼しに来た。月島桜の娘・桔梗(佳村萠)が誘拐されたため、その行方を探して欲しいという依頼だった。助手の小林(大竹浩二)とともに浅草の町を調査をはじめたが、どうもおかしい。いくつかの謎を解いていくうちに、魚塚は「あらかじめ用意された物語」のとおりに動かされていると感じる。やがてこの事件は、大正のサイレント映画「永遠の謎」のストーリーにそって展開していることに気がつき…

映画の見どころ(独断と偏見)

佐野史郎さんのスクリーンデビュー作にして初主演作。

また、『私立探偵濱マイク』シリーズなどで有名な林監督のデビュー作でもあり、当時29歳、無名で現場経験もゼロだった林監督がモノクロ・サイレントの手法を用いて撮影した映画です。

工藤の大好きな映画の一つです。
…ただし、じゃあどこが好きなの?と訊かれると言葉にするのがなかなか難しく
この記事もかなり時間をかけて書いてます。

しいて言うなら、若き日の佐野さんが、未知の世界である映像作品に果敢に挑んだ姿を楽しめる作品…演技・風景・空気感、すべてが尊く、いとおしく思えるそんな映画です。

この映画は、一度は映画館で観るべき、と工藤は思います。


この映画が撮影されたのは1985年の2月。佐野さんは29歳。
状況劇場」を辞めた後でした。この映画に出演される経緯にはいろいろなドラマがあるのでかいつまんでご紹介しましょう。


唐十郎率いる劇団「状況劇場」に入団し、舞台に立っていた20代の佐野さん。
ある日唐さんからとあることを言われてしまう…

「いらないって言われました。全然使い物にならなくて。まぁその頃は劇団の事情も色々あったし、劇団員の空気も変わってきたこともあったんですけどね(笑)。

でも、はっきり言われましたね。『そんな演技じゃ映像では絶対に通用しない。お前なんか、もういらないんじゃないか?』って。

何で唐さんがそんなことを言ったのかということは、わからないんですけど(笑)」
佐野史郎、“冬彦さん”との出会い。「状況劇場」を辞めた後…好青年、癖のある役を経てマザコン男に | TVerプラス - 最新エンタメニュース

師である唐さんから引導を渡される形となり、劇団を辞めたあとがなかなか面白い…

1984年8月に状況劇場を辞めた佐野さんは、「映像の芝居とは何ぞや」と思いたち小津安二郎監督の作品など、映画を見まくっていた。サイレント映画なども。

またバンド「タイムスリップ」を結成し、その活動の中で遠藤賢司さんと出会う。ジョイントやサポートをしているうちに、遠藤賢司さんとあがた森魚さんとのジョイントライブが開催。そこにいたのがスタッフをしていた林海象監督だった。


はじめはあがた森魚さんが映画を撮る予定で、そのカメラテストを受けた佐野さん。そのテストが終わった日、林監督から「これをやってみてほしい」と台本を見せられた。それが『夢みるように眠りたい』だった、というわけなのである。


佐野さんを口説いた林監督の当時の印象は以下のとおり

林:映画の方向性が決まったときに、主演の探偵を演じてくれる人が必要だったのです。コネもなかったのですが、あがた森魚さんのお手伝いをやっていたので、遠藤賢司さんの渋谷エッグマンでのライブに連れて行ってもらい、そこでギターを弾いてらっしゃった佐野さんに出会いました。ものすごく昭和なお顔といでたちだったので、もう、この人がいいなと。

林海象監督&佐野史郎 ふたりを繋いだ「夢みるように眠りたい」から最新作「BOLT」まで34年の軌跡 : 映画ニュース - 映画.com


佐野さんも、台本を読んで「やってみたいなー」と素直に思ったという。

佐野:ライブの打ち上げで林監督から映画の企画を聞いて、脚本をいただいて読んだらもう大好きな世界観だったんです。サイレント、モノクロ、乱歩の世界、そして音楽の静寂さが渾然一体となって自分の求めているものに、遠藤賢司さんはじめ、音楽の仲間たちと共に導かれていったという感じ。唐さんから言われた映像の演技を模索しようとしていた時の、奇跡のような出会いのシナリオでした。
林海象監督&佐野史郎 ふたりを繋いだ「夢みるように眠りたい」から最新作「BOLT」まで34年の軌跡 : 映画ニュース - 映画.com


林監督は、親御さんに製作費をかりて映画作りをスタートさせる。無名の監督が映画を撮っても観客に振り向いてもらうのは容易ではないと考えた林監督は、「有名な人が携わっていれば振り向いてもらえるだろう」と、一流の映画人を口説きにかかった。

:佐野さんからキャストが決まったんですよね。誰も出たくないわけですよ、得体のしれない新人の映画なんて(笑)。「月島桜」という映画のキーとなる老女のキャスティングも難航し、恐れ多くも映画界を引退して以来、隠遁生活を送られていた伝説の大女優・原節子さんに依頼してしまった。

スタッフがいろんなルートを辿ってお会いしたら、「随分長く映画に出ておらず、この作品だけに出るわけにいかないんです」と丁重に断られ、「どうぞみなさん、頑張ってください」と大変ありがたい言葉をかけられた、と。それで撮影2日前まで決まらなくて、あがたさんが戦前のやはり伝説的な時代劇女優、引退していた深水藤子さんを知っているという話になり、お願いすると、奇跡的に快諾していただけたんです。

佐野史郎×林海象が語るカルチャー蘇生術 過去の作品を甦らせる | CINRA

良いエピソードがザクザクある映画である(笑)

スタッフも一流の映画人がそろい、撮影:長田雄一、照明:長田達也、美術:木村威夫 が参加。運命の出会いと林監督の熱意のもとに集まったキャスト・スタッフによって手探りながらも作られた異色のサイレント映画は1986年無事劇場公開され、その美しい世界のとりこになるファンが生まれヒットにつながった…というわけです。

また、「ヴェネツィア国際映画祭」にも招待され、上映終了後、2000人もの観客全員によるスタンディング・オベイションがあったという。

そんな素晴らしい「夢みるように眠りたい」は1986年の封切り以来、繰り返し上映されていましたが、オリジナル・フィルムが行方知れずになり、VHSソフト・LDソフト・DVDソフトもプレミア化され、ファンは時々上映される映画を観るしか再鑑賞の機会がなく、長年「観たくても観られない」という作品になりつつありました。

しかしながら、2020年にオリジナル・ネガフィルムが奇跡的に発見。クラウドファンディングによりデジタルリマスターされたのでした。

クラウドファンディングアーカイブ
https://www.kickstarter.com/projects/796937519/remastering-jpn-cult-film-sleep-to-dream?lang=ja

工藤はクラウドファンディングに乗り損ねてしまったのですが、このクラウドファンディングに参加した方々のおかげで、映画館で鑑賞する機会を得られたことをありがたく思っています。1993年から佐野さんを愛しはじめ、「何時かスクリーンデビュー作を観たい、観るならば映画館で観たい」と願っていた工藤の夢がかなった瞬間は最高でした…(しかもご本人の舞台挨拶付きだった

その後、Blu-rayソフトが発売のアナウンスなどはなく…ソフトはさすがに出ないのか?と思ってLDソフトを買いました(笑)ですが、やっとBlu-rayソフトも発売され、無事ゲット…よかった。

配信もされておりますので、現在は容易に鑑賞ができるかとおもいます。

ご興味のある方、一度劇場で観たきりの方はぜひデジタルリマスター版を楽しんでみてください。

また、サウンドトラックもサブスク配信開始しました!待ち望んでいた人たちのもとに届け!

佐野史郎さんの役どころデータ

役名:魚塚甚(ウォッカ・ジン…という洒落)
職業:私立探偵
女性関係:事件を追ううちに、桔梗に惹かれていき…